case2.脾臓の悪性間葉系腫瘍
今回の症例は去勢雄の雑種犬、11歳7か月です。
主訴は呼吸が荒い、お腹が腫れている気がするとのことでした。
血液検査とエコー検査を行ったところ、原発性甲状腺機能低下症と非再生性貧血、拡張型心筋症および脾臓腫瘍が見つかりました。
心臓の状態も決して良くないのですが、脾臓腫瘍は今後、出血や播種、転移などの可能性があるため麻酔管理を慎重に行いながら手術に挑むことにしました。
これが脾臓腫瘍のエコー画像です
これは手術前の心臓エコー画像です。右房と左房が拡大しています。
幸い当院にはAcrosurgeというマイクロ波メスがあるため、大幅に手術時間が短縮できます。
無事手術は成功し、術後の心臓への影響もほとんどありませんでした。
手術で摘出した脾臓腫瘍は病理組織学的検査に出しました。
診断結果の一部を抜粋したものです。(専門用語が多く少し難しいかもしれません)
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病理組織学的診断:悪性間葉系腫瘍(Malignant mesencymal tumor)
概要:間葉系の悪性腫瘍性病変が認められました。脾実質の未分化間葉系細胞由来が疑われます。脾実質内に形成された腫瘍状部分に腫瘍細胞の増殖巣が認められています。構成する細胞は、核小体明瞭で大小不同を示す卵円形核と好酸性細胞質を有する紡錘形~多角形の腫瘍細胞で、束状配列やシート状配列を示して増殖し、核分裂像は散見されます。また腫瘍内には小型リンパ球の浸潤も少数認められています。脾被膜は保たれており脾摘により、腫瘍部分は取り除かれていると考えられます。肝など多臓器への転移には念のためご注意ください。
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つまり診断は悪性間葉系腫瘍で、脾臓腫瘍は完全切除できているとのことでした。
この結果を受けて、手術後はエンドキサンという抗がん剤による低用量メトロノミック療法を行いました。
それから約1年間、転移所見もなく経過は順調で、心臓も心房拡大と軽度の不整脈はありましたが強心薬とタウリンなどのお薬でコントロールしながら経過は順調でした。
飼い主さんと相談のすえメトロノミック治療をいったん中止したところ、1か月後に肝臓と膀胱に転移所見が見つかりました。
おそらくですが、メトロノミック療法がかなり効いていたのかと思われます。その後メトロノミック療法を再開し、血管肉腫を疑いそれに効果が期待されているI’m Yunityと雲南田七という2つの漢方を試してみることにしました。さらにプラスα治療として週1回のオゾン治療もしております。そこから4か月経っておりますが、現在腫瘍は大きくなることはなく、症状も落ち着いています。
これは再発時の肝臓腫瘍の細胞診診断結果です。
今回お伝えしたかったことは、メトロノミック療法という副作用が少ないとされる低侵襲な抗ガン治療でも治療効果が得られた、ということ。
そして治療方法は抗がん剤だけではなく、漢方やオゾンなど様々な選択肢があり、最後まで諦めなければ希望が見えてくるかもしれない、ということです。
ケースバイケースではありますが、当院ではそれぞれの患者さんあった治療やケアをご提案させていただきます。この病気だからこの治療しかない!ではなく、こういったケアもあるよ、このような緩和治療も可能です、というように私自身の知識を絞り出し、より多くの選択肢から飼い主さんが納得して治療方法を選んでいただけるように努力してまいります。
治療のことで何かお困りのことがありましたら、いつでも当院にご相談ください。ではまた。