CASE

症例紹介

Case.14 電気化学療法【犬の上顎線維腫性エプリスの症例】

今回は新たながん治療の一つである電気化学療法(以下、ECTとします)の症例です。

がん治療として一般的なものは主に外科治療、化学療法、放射線治療の3つがありますが、それぞれにメリットとデメリットがあります。例えば、腫瘍が外科では取ることができない場所(範囲)にある、放射線の費用が高い、抗がん剤での副作用が怖いなどです。

ECTはヨーロッパの獣医療から始まった治療法で、犬や猫などの小動物から馬などの大動物まで治療が可能な施術です。

電極を患部に当てることで、通常の腫瘍細胞の状態だと抗がん剤が入りにくいところまで一定時間の間抗がん剤が腫瘍細胞へ入るのを数千倍促進します。また、腫瘍周囲の血管を絞める効果があり抗がん剤を腫瘍に留めておく効果や、止血効果、免疫応答を促進し施術をしていない箇所(転移箇所など)にも効果が期待できる可能性があります。

ECTのメリットは、外科的に取れない箇所での抗がん効果が期待できることや施術時間が短時間で済むこと、他の抗がん治療よりも比較的安価であることです。

デメリットは、骨腫瘍は適応ではないこと、術後に局所の壊死や疼痛が3週間前後出る可能性があること、短時間ですが麻酔をかけないといけないことなどです。

 では、さっそく症例を紹介します。

患者さんの情報

10歳のポメラニアン

去勢済み雄

トリミングで上顎吻側に腫瘍がみつかり受診されました。

来院時の体重:5.6kg

検査

診察で上顎吻側に腫瘤を確認し、歯列の乱れもあるため悪性腫瘍を疑って、全身麻酔のもと腫瘍を部分切除しました。

切除した腫瘍を病理検査を出したところ線維腫性エプリスという診断でした。

これは良性腫瘍ですが、局所浸潤性が強い腫瘍です。検査結果詳細は以下に載せます。

治療

静脈点滴でレブリチンという増感剤を投与した後にブレオマイシンという抗がん剤を投与し、さらに局所注射でカルボプラチンを投与しました。

生検用に歯肉腫瘤を部分切除し、残った病変に対してECTを実施しました。

経過

ECT後は、鎮痛剤とフェンタニルパッチ、抗生剤で補助治療を行いました。術後も痛みのコントロールをすることで食欲は落ちることなく食事もとれました。

 術後7日目の診察で施術箇所は白色壊死化しており腫瘍の縮小がみられました。

 術後12日目の診察では施術箇所の白色壊死化しているところが減り、少しずつ正常組織に置換され上皮化されてきました。体調も特に問題なく経過しました。

術後23日目で腫瘤は完全に消失し、一部白色壊死の箇所はありますが、ほぼ正常組織に置換されていました。

今後は再発兆候がないか経過を追い、2回目のECTをする必要があるかどうか検討します。

終わりに

ECTは今後新たな抗がん治療として期待されるものであると考えています。

顔面の腫瘍、鼻腔内腫瘍、四肢の腫瘍、体表の大きな腫瘍、肛門周囲の腫瘍、尾の腫瘍など多くの腫瘍で可能性を秘めている治療法です。

どんな腫瘍でも治せるというものでは決してありませんし、外科で取りきれるのであれば外科的治療に勝るものはありませんが、治療法の選択肢が一つ増えることで飼い主さんやわんちゃん、猫ちゃんにとってベストな道が開けるのではないかと思っています。

【ECT治療について】

施術方法:麻酔下もしくは鎮静下で行う。施術時間は5~20分、2~4週間毎に1~3回行うことがある。

使用する抗がん剤:ブレオマシイン 20mg/m2(静脈注射)+シスプラチン局所投与

*オプションで、レブリチン投与を併用しています。体重1kgあたり7040円(税込)。

メリット:外科不適応な腫瘍でも治療可能、全身性の副作用がない、比較的安価、施術時間が短い、施術回数が少ない

デメリット:麻酔もしくは鎮静下での処置、局所の壊死、局所疼痛、骨腫瘍には適応外であること

費用:体重関係なく1回のECTで55000円(税込)です。

*麻酔費用や注射費用などは別です。

治療でお困りの方は、当院までご連絡ください。

ブルーム動物病院: 045-710-0447