CASE

症例紹介

Case15.熱がある、FIPかもしれない?

今回の症例は2頭の猫ちゃんです

患者さんの情報

1頭目の猫(以後、猫①とする)

生後7か月のミックス

未去勢雄

体温:39.4度

猫コロナ抗体価:3200倍

食欲活動性スコア:食欲2/6 活動性2/5

状態:下痢嘔吐なし、神経症状で全身の軽度な震えあり、眼病変なし

2頭目の猫(以後、猫②とする)

生後7か月のミックス

未去勢雄

体温:39.4度

猫コロナ抗体価:3200倍

食欲活動性スコア:食欲2/6 活動性2/5

状態:下痢嘔吐なし、神経症状なし、眼病変なし

猫①猫②ともにFeLV(-)/FIV(-)

来院までの経緯

2頭は同腹の兄弟です。

2頭は同じタイミングで10日前から少し食欲元気がなくなり、他院で発熱も見られました。解熱剤でも熱が下がらず検査の結果、猫コロナ抗体価が高いためFIPの疑いがあると言われ当院に来院されました。

検査

当院では血液検査とエコー検査を実施しました。エコー検査では2頭とも異常は見られませんでした。以下に2頭の血液検査の結果を載せます。

2頭とも炎症マーカー、A/Gともに異常なし。全血コロナPCR検査は検出されず、糞便コロナPCR検査は陽性でした。

FIPの鑑別

 さて、ここで大事なポイントは2つです。

(1)微熱は病的な発熱なのか

 2頭とも微熱でしたが、血液検査によるSAAとα1AGはともに基準値でした。

ということは院内で確認された微熱は生理的な高体温であった可能性が高くなります。もしもFIPやその他の炎症性疾患で発熱が起きている場合、ほぼ100%炎症マーカーであるSAAやα1AG値が高くなります。炎症マーカーが高くない場合の高体温は、病的な発熱ではないと考えます。

(2)猫コロナ抗体価3200倍はFIPによりあがったのかどうか

 猫コロナ抗体価は猫コロナウイルスに対して生体内での免疫反応により生成された抗体を測定しております。ほぼ100%の猫が腸管内にコロナウイルス(FCoV)をもっているため、猫コロナ抗体価が高い場合に重要なことは、FCoVに反応している抗体なのか、FIPに反応している抗体なのかどうかです。

まとめ

今回の症例では2頭に認められた微熱は生理的な体温上昇であり、猫コロナ抗体価はFCoVによる影響と考え、FIPでの体調悪化ではないと判断しました。

FIPではないとなるとなぜ食欲や元気がないのか、まずは食欲増進剤とごく少量のステロイド剤の内服で経過をみることにしました。そして後日、食欲も回復し元気に過ごせるようになりました。今回は一過性の食欲不振だったようです。

今回の大事なポイントは、微熱=病気ではないということです。

できるなら血液検査等を実施して総合的に判断したほうが正確な診断につながります。

FIPかもしれない、FIPかどうかわからない、と病院で言われて不安な方は当院にご相談ください。