Case11.よだれが止まらない、重度の歯肉口内炎の治療症例
患者さんの情報と来院までの経過
5歳の去勢済みの雄猫で、品種は雑種です。来院時の体重は4.66kg
FeLV(+)/FIV(+)(猫白血病ウイルスと猫エイズウイルスともに陽性)であり、2023年10月からプレドニンとビブラマイシンで治療するも減薬ができない状況。
抜歯はしておらず、流涎(よだれ)もあり、口腔内の赤みは重度で痛そうな仕草もあるとのことでした。
来院時の様子
2024年4月に口内炎治療を希望されて当院を受診されました。
口内炎の程度を知るための口内炎疾患活動性指数(SDAI)というスコア表を用いて、飼い主さんにスコアを付けてもらったところ、食欲1、活動性3、グルーミング頻度3の9点満点中7点で、重度の口内炎と評価しました。
以下に口腔内の写真を載せます。
検査
まず血液検査とエコー検査を行いました。
血液検査では、SAA上昇、高グロブリン血症、肝酵素上昇が見られました。
エコー検査では特に異常は見られませんでした。
慢性歯肉口内炎と診断し、Mutoral(ミュートラル)の治療を開始することにしました。
治療と経過
Mutoral Ⅰを1回2.25錠で1日2回内服し、2週間投薬を続けます。
投薬開始から2~3日で流涎(よだれ)の量が減少し、食事量が少し増えました。
投薬開始から1週間でほぼ流涎がなくなりました。
来院時は目が腫れて開けづらそうにしていましたがこちらは抗生剤の投薬ですぐに改善しました。
投薬開始から2週間後の診察では、体調は変わらず、体重は4.82kgになり来院時と比較して200g増量していました。
またSDAIのスコアも食欲0、活動性3、グルーミング頻度3の9点満点中6点で、スコアとしてはまだ高いですが、改善傾向にありました。
血液検査では、軽度の肝酵素上昇(GOT:102→151、GPT:244→341)と軽度の好中球減少(3470/μL→1110/μL)が見られましたので、強肝剤とセファランチンという内服薬を追加し、Mutoral Ⅱ錠を1回1.25錠で1日1回内服に移行しました。
治療開始から1か月後
体重は5kgになり、前回来院時から更に200g増量していました。また、SDAIのスコアも食欲0、活動性1、グルーミング頻度2の9点満点中3点で、劇的な改善がありました。
血液検査では、軽度の肝酵素上昇(GOT:151→139、GPT:341→441)が見られました。好中球はセファランチンの内服で改善しておりました。肝臓の薬を変更して、Mutoral Ⅱ錠を継続しました。
治療終了1週間前
体重は4.94kgで前回の体重を維持していました。SDAIのスコアも食欲0、活動性1、グルーミング頻度0の9点満点中1点で、さらに改善していました。
血液検査では、肝数値が改善し(GOT:139→76、GPT:441→161)。SAAも基準値以下で問題ありませんでした。
猫ちゃんの性格上、治療期間中に口の中を見ることができなかったため、投薬終了のタイミングで鎮静をかけて口の中の評価をすることにしました。以下に口腔内の写真を載せます。
口の赤みや舌炎が皆無となり、最初の写真と比べると一目瞭然です。
MutoralⅡへ移行してからも効果が維持され、経過も順調なため84日間の投薬で治療を終了としました。
その後
2024年12月(投薬終了から4か月以上経過)の時点で、特に投薬や口腔内ケアもせず、口の痛みや流涎もなく、食事もしっかりとれている状況を維持できているとのことです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
お薬の詳細
Mutoralには、MutoralⅠとMutoralⅡの2種類があり、まずMutoralⅠを2週間投与します。用量は体重1kgあたり半錠を1日2回です。そこで効果があれば、MutoralⅡに移行して、体重1kgあたり1/4錠を1日1回、70日間飲ませて投薬を一旦終了します。
アレルギー体質・重度の腎障害や肝障害がある場合は慎重に投与する必要があります。副作用には、アレルギー症状・傾眠・多飲などがありますが、いずれも重度ではありません。
Mutoralの価格は、84日間分(Ⅰが14日間+Ⅱが70日間)で体重1kgあたり約45,000円です。例えば、体重4kgの子の場合のお薬の費用は約18万円となります。
全顎抜歯の費用は病院によって幅がありますが8~20万程度ですので、同程度の費用感で全身麻酔も抜歯もしなくてすむMutoralを当院ではオススメしています。
猫ちゃんの口内炎の治療でお困りの方は、当院までご連絡ください。
ブルーム動物病院: 045-710-0447