CASE

症例紹介

case10.劇的な改善がみられた歯肉口内炎の症例

患者さんの情報

3歳の雄猫(去勢済み)

歯肉口内炎の治療を希望されて当院を受診される

今までに2回抜歯しており、全顎歯がない状態

体重は来院時の時点で3.72kg(2024年5月)

来院時の様子

口内炎の程度を知るために口内炎疾患活動性指数(SDAI)というスコア表を用いて評価をします。

飼い主さんにスコア表を付けてもらい、食欲3、活動性2、グルーミング頻度3の9点満点中8点で、重度の口内炎と評価しました。

飼い主さんが猫ちゃんを保護してから8か月経ったところでしたが、舌炎、流涎(よだれ)、口腔内の赤みはずっと続いていました。

他院でソレンシアや抗生剤の投薬をしており、そこまで食欲は落ちていないとのことでした。

以下に口腔内の写真を載せます。

検査

まず血液検査とエコー検査を行いました。

血液検査では、WBC上昇、SAA上昇、高グロブリン血症、肝酵素上昇が見られました。

エコー検査では、軽度の肝腫大と心臓に異常が見られました。心臓に関しては(遠方からのご来院であったため今後のことを考慮して)後日かかりつけ病院で心臓治療を併行してもらうことになりました。

診断と治療

診断は難治性の慢性歯肉口内炎として、治療が必要であると判断しました。

この子の場合、口内炎以外にも気になるところがあったため口内炎治療だけでは全身状態がよくならない可能性があり、口内炎治療自体がそれらの問題に悪影響を及ぼす可能性があることも飼い主さんにお伝えしたうえでご同意いただき、Mutoral(ミュートラル)を用いた治療を開始しました。

Mutoralは錠剤のお薬でⅠとⅡの2種類があります。まずMutoral Ⅰを1回2錠で1日2回内服し、2週間投薬を続けます。今回は肝臓のお薬とかかりつけ病院で処方された心臓のお薬も同時併用しました。

経過

投薬を開始してからだんだんとお薬を飲ませることが難しくなり、確実にあげるために食道チューブを設置し、チューブから投薬を継続することになりました。

 投薬を開始して2~3日で流涎(よだれ)が改善し、食事量が増えました。

 投薬開始してから2週間で体重は4.1kg(来院時は3.7㎏)まで増加し、口内炎疾患活動性指数(SDAI)のスコアは食欲3、活動性1、グルーミング頻度0の9点満点中4点まで下がり、かなりの改善が見られました。

口の痛みが軽減されると口周りを飼い主さんが触れるようになりました。

口内炎治療による目立った副作用はみられず、血液検査では肝臓数値も改善していました。

2週目の猫ちゃんの様子を以下に載せておきます。

経過良好のため、Mutoral Ⅱへ変更し1回1錠で1日1回の内服を70日間投薬してもらいました。

 投薬1か月目で体重は4.3kgに増加。口内炎疾患活動性指数(SDAI)のスコアは食欲0、活動性0、グルーミング頻度0の9点満点中0点となり、さらなる改善が見られました。

口の痛みや流涎(よだれ)の改善に伴いドライフードをしっかり食べられようになりました。

特にお薬による副作用は見られませんでした。

食べ過ぎて嘔吐した際に食道チューブが出てしまい、再度設置した際に口の中を撮影したものがこちらです。

最初のときの写真と比べると一目瞭然です。かなり赤みがとれて舌炎が改善されています。

MutoralⅡへ移行してからも効果が維持され、経過も順調なため84日間の投薬で終了予定です。

あとは、治療が終了してからどれくらいこの状態が維持できるのか、症状の再燃がないのかが重要になってきます。

また経過をお知らせできればと思います。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

お薬の詳細

Mutoralには、MutoralⅠとMutoralⅡの2種類があり、まずMutoralⅠを2週間投与します。用量は体重1kgあたり半錠を1日2回です。そこで効果があれば、MutoralⅡに移行して、体重1kgあたり1/4錠を1日1回、70日間飲ませて投薬を一旦終了します。

アレルギー体質・重度の腎障害や肝障害がある場合は慎重に投与する必要があります。副作用には、アレルギー症状・傾眠・多飲などがありますが、いずれも重度ではありません。

Mutoralの価格は、84日間分(Ⅰが14日間+Ⅱが70日間)で体重1kgあたり約45,000円です。例えば、体重4kgの子の場合のお薬の費用は約18万円となります。

全顎抜歯の費用は病院によって幅がありますが8~20万程度ですので、同程度の費用感で全身麻酔も抜歯もしなくてすむMutoralを当院ではおすすめしています。

猫ちゃんの口内炎の治療でお困りの方は、当院までご連絡ください。

ブルーム動物病院: 045-710-0447