CASE

症例紹介

Case9.腸炎?異物?FIP?様々な診断を受けて

今回の症例は6歳のスコティッシュフォールドの猫ちゃん(去勢済み雄)です。

受診までの経過

1週間前から食欲不振と頻回の嘔吐で他院(1病院目)を受診されていました。その時は特に検査上異常がなく、吐き気止めのお薬と点滴で様子見となりました。

改善がみられなかったため、その2日後に別の他院(2病院目)を受診。

エコーで胃液の貯留を認め、バリウムを飲ませて検査をしたところ胃から下へ流れていかなかったため、異物を疑い開腹手術となりました。

開腹したところ異物は見つからず、そのまま閉腹。

その際に黄色の液体貯留があったとのことでFIPを疑い、当院を紹介されたそうです。

当院にかかられたのは猫ちゃんにとって3病院目でした。

診察と検査

すぐに血液検査とエコー検査、腹水性状検査を実施しました。

血液検査は以下に載せておきます。

  

 血液検査の結果からリパーゼという膵臓の数値が高く、膵炎の簡易検査キット(NSAPfPLキット)でも強陽性が出ていました。また、エビデンスは低いですが、腹水中のリパーゼがかなり高い値を示していました。

2件目の病院で術前検査をした際もリパーゼは基準値を超えていました。

次のエコー検査では胃液貯留や消化管運動低下&液体貯留、重度の腹水貯留が確認できました。腹水の性状に粘調性はなく、腹水と全血のサンプルからはコロナPCRは検出されませんでした。

治療と経過

以上のことから、この猫ちゃんは急性膵炎による腹水貯留と判断し、ブレンダ、抗生剤、ステロイド、六君子湯などのお薬で治療を開始しました。

その後の経過は良好で、入院2日目には退院して自宅での治療に切り替えました。

退院3日後には元気だったころの8割、さらに1週間後にはほぼ元の体調まで戻っていました。

診断は 

今回はFIP疑いのあった急性膵炎の症例でした。

麻酔や手術をしなくても診断治療できることはあるということが今回の大事なポイントでした。

確かに黄色の腹水とSAA(炎症マーカー)の上昇となるとFIPを疑いたくなる気持ちも分かります。ただし、腑に落ちない点があればうやむやにしないことです。

粘調性がない腹水、血液と腹水リパーゼの上昇、SNAPfPLの強陽性、これらはFIPではあまり見られない所見です。膵炎もFIPと間違えやすい疾患の一つなので、見極めは大事です。

ここまでお読みいただきありがとうございました。