CASE

症例紹介

case8.FIPかと思いきや?

今回は、夜間に緊急ダイアルにて「昼からご飯食べなくて、様子見ていたらみるみる元気がなくなり、寝ているときにビクビクする。胸のあたりを触ると痛そうにします。」とのことで、診察となった症例です。

患者さんの情報

3歳10か月の猫

種類は雑種

避妊済みの雌です

来院時の様子

診察室では少し元気がない様子と、呼吸がやや速く感じました。

聴診では特に異常はありませんでしたが、体温が41度もありました。

そこで一瞬、FIPかもしれない。という考えが頭をよぎりました。

検査

飼い主さんにご説明したうえで血液検査とエコー検査を実施しました。

〈血液検査結果の抜粋〉カッコの中は基準値です

TP:9.1 (5.7~7.8)

Alb:3.1 (2.3~3.5)

A/G:0.516 (0.5<)

SAA:186.8 (5.49>)

α1AG:2357 (736>)

血液検査の結果から、FIPにしてはA/Gがそこまで低くないなと思いましたが、そのほかに関しては異常を示す項目が当てはまっていたので、FIPの可能性も捨てきれずエコー検査に移りました。

〈エコー画像の抜粋〉

すると、極微量ですが胸腔内に粘調性の高そうな液体が貯留してました。

FIPのウェットタイプでも粘調性の高い(いわゆるトロッとした)胸水や腹水が貯留することがありますが、今回の場合エコー所見上でもFIPにしては粘調性が高すぎる気がしました。

この時点で私の中でFIPの可能性は低くなりました。

次に軽く鎮静をかけ、貯留している胸水を抜きました。

採取できた胸水は上の写真のもので、FIPで典型的なものと比較して白濁しています。

こちらの胸水を細胞診検査をしてみたところ、

たくさんの細菌が見られました。これで今回の診断は、膿胸であると確定しました。

診断と治療

膿胸は、若い猫ちゃんで多い疾患です。胸腔内に細菌性の胸水(膿)が溜まる病気です。

けんかなどの外傷からなることもあるのですが、原因不明の膿胸もあります。

呼吸が荒くなってから気付くことが多いため、胸水の量も割と多い状態で見つかることがほとんどです。

胸水量が多いと、抗生剤の投薬治療だけでは限界があり、一度や二度胸水を抜去しても再貯留してくるので、ドレーンを胸腔内に入れて胸腔洗浄しないと治らないこともあります。

今回のケースでは入院管理のもと、抗生剤治療を開始。

胸水量が比較的少ない初期の状態で見つかったため10日間の投薬治療で完治しました。

膿胸はFIPとよく間違えられる疾患の一つなので、当院で病気を早期に見つけられたことは幸いでした。

今回もお読みいただきありがとうございました。