case7.全身状態に影響を及ぼした猫の慢性歯肉口内炎の症例
猫ちゃんの口内炎治療としてご紹介したMutoral(ミュートラル)ですが、
今回は、当院で猫ちゃんの口内炎に対して行っている内服治療(Mutoralの投薬)に関する症例報告です。
症例概要
猫ちゃんの病態
- 3歳、去勢済み、雑種
- 臆病で接触も投薬も難しい
- FeLV陰性/FIV陰性
- 2021年にFIP(猫伝染性腹膜)ウェットタイプと診断
- FIPは治療を行い寛解
口内炎の状況
口内炎の発症は1年前でした。ステロイド・コンベニア(抗生物質)の治療を続けるうちに徐々に効果がでなくなり、流涎(よだれ)や口の赤みも悪化しているとのこと。
他院さんでは抜歯を勧められたそうですが、抜歯をするかどうかで悩まれており、当院での内服治療(Mutoaral)をまずやってみたいとのことでした。
治療経過
治療前の口内炎疾患活動性指数
口内炎の程度を測るための口内炎疾患活動性指数(SDAI)というものがあります。食欲減退・活動性低下・グルーミング頻度をそれぞれ3点、9点満点で評価します。点数が高いほど重篤であることを意味します。
治療前に飼い主さんにスコアを付けてもらったところ、食欲減退3点、活動性低下1点、グルーミング頻度3点の9点満点中7点で、重度の口内炎と評価しました。
※今回は口腔内の写真撮影が難しい猫ちゃんのため写真はありません。
口内炎以外の疾患
投薬前の血液検査では、軽度の貧血と腎パネルの上昇、肝酵素の上昇、軽度黄疸、炎症マーカーの高値が見られました。
さらにエコー検査では、肝臓の右葉の辺縁に低エコー性の腫瘤が認められ、腫瘤の細胞診検査をした結果、非上皮系腫瘍の疑いがあることがわかりました。
どうやらこの猫ちゃんの問題は口内炎だけではなさそうです。
飼い主さんとよく相談した結果、猫ちゃんの性格を考慮して1度にあげられるお薬は1種類が限界ということで、まずは口内炎治療のMutoralのみを使用して、その結果少しでも口の痛みが取れることでご飯が食べれるようになり、全身状態が良くなってくれたらその時にそれ以外の治療をどうするか考えるという結論になりました。
早速、Mutoral Ⅰ錠を1.5錠 毎日朝晩内服していただきました。
Mutoral Ⅰ錠の効果
なんとか2週間お薬を飲ませ続けることができ、流涎(よだれ)もなくなり、口の痛みがとれているとのことでした。食事量が増えたので、体重も少しですが増えていました。
口内炎疾患活動性指数(SDAI)は食欲減退1点、活動性低下3点、グルーミング頻度3点の9点満点中7点でスコアは変わらずでしたが、食欲減退のスコアが3点から1点に減っていたのはMutoralにより口内炎が改善したことが理由かと考えます。
また、活動性低下のスコアが上がった理由は、投薬を嫌がった猫ちゃんが少し部屋の隅っこに隠れてしまうことが多くなったことが理由かと思います。総合的には、経過としてはまずまずと判断しました。
血液検査では、貧血の値は変わりありませんでしたが、肝臓と腎臓の値は少し改善が見られました。黄疸も消失し、炎症マーカーも下がっていました。エコー検査でも肝臓の腫瘤が投薬前と比較して縮小していることがわかりました。
そこで飼い主さんと相談した結果、このまま口内炎治療を継続したいということになり、Mutoral Ⅱ錠 1錠を1日1回に移行して70日間内服することにしました。
以下に血液検査の結果とエコー画像を載せておきます。

<Mutoral Ⅰ錠の投薬前と投薬後2週間での血液検査の比較>

<Mutoral Ⅰ錠の投薬前エコー画像、肝臓腫瘤(18.1×17mm)>

<Mutoral Ⅰ錠の投薬2週間後のエコー画像、肝臓腫瘤(17.9×12.8mm)>
Mutoral Ⅱ錠の効果
今回の症例では口内炎以外の健康問題もあったので、Mutoralを内服することによるリスクも考えられました。また、治療で口内炎が改善したとしても、肝臓や腎臓、貧血など他の問題で体調の改善が見込めない可能性もありました。
しかし今回はMutoral Ⅱ錠により口内炎が改善されたことで、ごはんを食べれるようになり、全身の栄養状態が改善されたことで、黄疸や肝臓、腎臓パネルの値までもが改善していきました。
まだすべての問題を解決できたわけではありませんし猫ちゃんの性格もあってなかなか難しい問題ですが、今後も飼い主さんとよく相談しながら治療を進めていけたらと思います。
Mutoralの投与期間と価格
投薬期間
Mutoralには、MutoralⅠとMutoralⅡの2種類があり、まずMutoralⅠを2週間投与します。用量は体重1kgあたり半錠を1日2回です。そこで効果があれば、MutoralⅡに移行して、体重1kgあたり1/4錠を1日1回、70日間飲ませて投薬を一旦終了します。合計84日間の投薬治療となります。
アレルギー体質・重度の腎障害や肝障害がある場合は慎重に投与する必要があります。副作用には、アレルギー症状・傾眠・多飲などがありますが、いずれも重度ではありません。
お薬の費用
Mutoralの価格は、84日間分(Ⅰが14日間+Ⅱが70日間)で体重1kgあたり約45,000円です。例えば、体重4kgの子の場合のお薬の費用は約18万円となります。
全顎抜歯の費用は病院によって幅がありますが10万〜20万円程度ですので、同程度の費用感で全身麻酔も抜歯もしなくて済むMutoralを当院ではおすすめしています。