CASE

症例紹介

case6.FIPの典型的な症例〈ウエットタイプ編〉

猫ちゃんの情報

・雑種
・生後4ヶ月
・未避妊のメス
・治療前体重:1.58kg
・体温:38.4度

検査と診断

当院独自の食欲活動性スコアは、食欲スコア2/6、活動性スコア3/5でした。
FIPでよく起こる下痢・嘔吐・神経症状・眼病変の症状はありません。


血液検査をしたところ、FIPの典型的な所見である低HCT・高α1AG・低A/G比が確認できました。
また、低Na・低K・低Clとなっており、電解質の低下を認めました。


続いてエコー検査をしたところ、胸水の貯蓄を認めました。(青い矢印です)
赤い矢印は心臓です。
胸水と血液をコロナPCR検査にかけたところ、両方で陽性反応となり【FIPウェットタイプ中期】と診断しました。

治療と経過


飼い主様と相談し、入院無しでXraphconを内服する治療を行うことにしました。
Xraphconの容量は100mg/kg・1日1回の投薬としました。

同時に、ステロイド・強肝剤ウルソ・FCVリキッドを飲み薬で処方しました。
貧血の所見もあるため、治療開始日に造血ホルモン剤(エポベット)を皮下注射しました。

《 治療1週間後 》
体重に変化はなかったものの、食欲や元気もあり、呼吸も落ち着いていました。
エコー検査をした結果、胸水が消失していました。

《 治療1ヶ月後 》
体重は2.02kgになり、前回の計測から約400gの増量を認めました。食欲や元気も良い状態のままでした。
血液検査とエコー検査の結果は以下のとおりです。HCT値も上がってきており、α1AG・A/G比は基準値内に収まっていました。

(赤い矢印は心臓です)
また、全血コロナPCRは陰性となり、全体的に治療が順調に進んでいると判断しました。
次回は投薬終了前の検査の予定にしました。

《 治療終了の1週間前 》
体重は2.6kgになり、前回の計測から約500gの増量を認めました。

食欲や元気も良い状態です。
エコー検査では前回同様に胸水貯留はなく問題はありませんでした。

血液検査の結果は以下のとおりです。

HCT値もほぼ基準値まで上がり、それ以外の項目についても改善を認めました。
全血と糞便コロナPCRも陰性で、経過は非常に順調です。予定通り84日間の投薬で終了することにしました。

《 治療終了後 》
投薬終了後1ヶ月と3ヶ月で定期チェックを行い、無事に寛解していると判断しました。

おわりに

今回の症例紹介は典型的なFIPウェットタイプ胸水型でした。寛解までの検査回数は計6回でしたが、これは最小限の回数です。

FIPは非常に様々な状態の子がいますので、このように順調にいくケースだけとは限りません。適切な治療を早期に行うことが寛解のためにとても大切なので、FIPが疑われる場合はFIPの専門性の高い病院で的確な診断と治療を行って頂けたらと思います。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

お薬についてー Xraphcon(以前のMUTIAN)

◆ 内服で投与する場合
用法:1日1回、食餌2時間前(投薬後は絶食1時間)、84日間継続
容量:100~200mg/kg

メリット:注射薬に比べて安い、自宅で治療できる
デメリット:重症な場合は改善が見込めないこと、副作用(耳折れ、脱毛、肝酵素上昇、下痢など)があること

費用:体重2kgの子の場合、4800〜9600円/日です。金額に幅があるのは、病態により投薬量が変わるためです。

◆ 注射での投与する場合
用法:1日1回、皮下注射、84日間継続
容量:0.3~0.6ml/kg(状態が悪ければ増量も検討)

メリット:食事のタイミングと関係なく投与でき、効き目が早い
デメリット:同じ場所に長い期間注射していると、注射部位の潰瘍や肉腫になる可能性がある

費用:体重2kgの子の場合、入院下で注射する場合は9900〜19800円/日(注射代別)、自宅で注射する場合は7920〜15840円/日(注射器代別)です。金額に幅があるのは、病態により投薬量が変わるためです。

Xraphconだけにしかないメリットは「延長補償」と「再発補償」があることです。
もし、投薬終了時に検査などに不安が残り、投薬を延長しないといけない場合、その延長投薬にかかるXraphconの費用がすべて免除されます。また、84日間投薬した後にFIPの症状が1年以内に再発した場合、Xraphconの再投薬にかかる費用がすべて免除されます。当院では、他院さんでXraphconの投薬治療していて再発した場合でも、補償対象にしております。

お薬についてーモルヌピラビル


用法:1日2回、食前食後1時間は投薬しない、シロップで内服、84日間継続
容量:10~20mg/kg

メリット:値段が安い
デメリット:WBC減少、催奇形性、発がん性、下痢、肝酵素上昇など

費用:2kgの猫ちゃんで1日あたり552~1104円(税込)です。金額に幅があるのは、病態により投薬量が変わるためです。

当院では、とにかく命を助けることを一番に考えた上で、飼い主さんの要望に合わせて治療プランを提示しています。

病状や予後によってはイレギュラーな治療になる場合も多々ありますが、どの子にも一辺倒な投薬をするよりかは良いと考えています。

FIPの治療でお困りの方は、当院までご連絡ください。
ブルーム動物病院: 045-710-0447