case5.猫の全顎抜歯の時代は終わりになる?!新たな口内炎治療薬
猫の慢性歯肉口内炎(FCGS)は、ほとんどの猫ちゃんが生涯遭遇する疾患の一つで、治療で悩まされる病気です。
口内炎の原因は細菌・ウイルス・免疫・口腔内疾患などと言われることがありますが、まだはっきりとはわかっていません。
従来の内科的な治療では、ステロイド・抗生剤・鎮痛剤・インターフェロン製剤などを使っていましたが、どれも根本的には治すことはできませんでした。
また外科的な治療では、全ての臼歯の抜歯あるいは全ての歯の抜歯を行います。抜歯のメリットは1回の治療で行うことができること・症状の初期段階での治療効果が高いことですが、デメリットは全身麻酔のリスク・歯がなくなること・症状が進んだ状態では効果が低いことです。
今回は、抜歯・内科治療の双方に反応しなかった口内炎の猫ちゃんに対してMutoralというお薬を使った症例をご紹介します。
17歳の雑種猫、去勢済みのオス、体重4.1kgです。猫エイズ(FIV)が陽性です。半年前から口内炎の症状があり、抜歯をしても改善があまりなく、ステロイド・ビルデンタマイシン(抗生剤)・レペタン(鎮痛剤)・ソレンシア(鎮痛剤)を投薬しましたが良好な改善は見られませんでした。
歯肉の赤みは重度で、よだれの出過ぎや口を痛そうにする様子がありました。
口内炎の程度を測るための口内炎疾患活動性指数(SDAI)というものがあります。飼い主さんにスコアを付けてもらったところ、今回の症例では食欲減退3、活動性低下3、グルーミング頻度3の9点満点中9点で、重度の口内炎と評価しました。
投薬前の写真がこちらです。
舌の炎症もひどく歯肉の赤みもあります。よだれの出過ぎもみられました。
MutoralⅠを1回2錠で1日2回、Mutoralスプレーを1回4プッシュで1日2回行いました。
投薬して2日後にはよだれの量が少し改善され、食欲も上がりました。
投薬1週間後の写真がこちらです。
まだ赤みはありますが、かなり改善されています。
投薬2週間後の写真がこちらです。
まだ舌の炎症はありますが、下顎の唇にあった赤みはかなり消えてきました。
投薬2週目でMutoralⅠの効果があったため、MutoralⅡに移行して70日の投薬をすることにしました。移行後も状態はキープできており、目立った副作用も出ておりません。
体重は4.02kgになり約100gの減少がみられましたが、飼い主さんいわく、すごくよく食べるようになり、違う猫になったかのように顔つきや動きが良くなったとのことでした。SDAIは9点中3点まで下がりました。血液検査でも投薬による副作用は見られませんでした。
投薬1ヶ月後の写真がこちらです。
経過は順調で、舌の炎症もすっかり改善しました。よだれの量も改善されているようです。体重は4.5kgまで増えていました。SDAIも9点中3点でキープできており、血液検査でも副作用は出ておりません。
引き続き残りの日数の投薬を行ったら投薬終了になります。投薬終了後に口内炎の状況がどうなるかが重要です。今後も治療の経過をブログでアップ致します。
もし口内炎治療で悩んでいる方がいましたら、是非当院に一度ご相談ください。
*お薬の詳細*
Mutoralには、MutoralⅠとMutoralⅡの2種類があり、まずMutoralⅠを2週間投与します。用量は体重1kgあたり半錠を1日2回です。そこで効果があれば、MutoralⅡに移行して、体重1kgあたり1/4錠を1日1回、70日間飲ませて投薬を一旦終了します。
アレルギー体質・重度の腎障害や肝障害がある場合は慎重に投与する必要があります。副作用には、アレルギー症状・傾眠・多飲などがありますが、いずれも重度ではありません。
Mutoralの価格は、84日間分(Ⅰが14日間+Ⅱが70日間)で体重1kgあたり約45,000円です。例えば、体重4kgの子の場合のお薬の費用は約18万円となります。
全顎抜歯の費用は病院によって幅がありますが8~20万程度ですので、同程度の費用感で全身麻酔も抜歯もしなくてすむMutoralを当院ではオススメしています。